となりの食卓に並ぶもの [ミュージアム]
何を食べてるんだろう・・・?
カフェやレストランで隣のテーブルが気になるように、
よそのお家の夕飯が気になるように、
絵画も、食べ物が並んでるものにひかれる。
Arbert Eckhout(1610-1666) "Stilleven met ananas en andere vruchten" ca.1640
オランダの画家 アルベルト・エックハウトの「パイナップルと他のフルーツがある静物」。
この絵は、コペンハーゲン国立博物館からの貸し出しだった。
パイナップル、パパイヤ、ココナッツなど、南国のフルーツ。
いくら貿易が盛んだったとはいえ、当時のオランダ人にとってかなり珍しいものだったに違いない。
子供の頃、初めてキウイを食べた時、緑色なのに甘いと驚いた覚えがある。
食べ物に保守的な母が意外にもよく買ってきてたので、母もよほど気に入ってたんだろうな。
アルベルト・エックハウトは、西インド会社から任命され総督になったヨハン・マウリッツの招きで
オランダ領ブラジルへ同行。 そこで肖像画や静物画を描いていたそうな。
ちなみにヨハン・マウリッツが住んでいた館が、現在のマウリッツハイス美術館。
同じくオランダ領ブラジルへ同行した画家にフランス・ポストがいる。
私の好きなカピバラのいる風景画を描いた画家。 ← パリのルーヴル美術館にある。
↑ クリックすると、その絵のある前ブログの記事へ。
今回のお話は、オランダの画家の静物画。
2年前の2013年春、アムステルダム国立博物館が長い改修工事を終え再オープンした時に撮った写真で。
Willem Kalf(1619-1693) "Stilleven met zilveren schenkkan" 1655-1660
ウィレム・カルフの「銀の酒瓶のある静物」。
銀製の食卓用酒瓶は、フタや持ち手がついている水差しみたいな形。 浮き彫りがキレイ。
その背後にグラスがある。 金のグラスホルダー付き。
中国のものらしき器の模様も丁寧に描かれてる。
ウィレム・カルフの他の絵も検索して見てみたが、
お皿や器を斜めにして置いて描いているのが多く、その点も面白い。
皮をむかれたレモン、切られた房から黄色い果肉が見えてる部分の瑞々しい感じまで。
銀食器に反射するレモンの黄色も見事。 ・・・口の中が酸っぱくなってきた。
Willem Claesz. Heda(1594-1680) "Stilleven met vergulde bokaal" 1635
ウィレム・クラースゾーン・ヘダの「金箔のゴブレット(脚付き酒杯)のある静物」。
Claesz.は、Claeszoonで、クラースの息子を意味するよう。
これにも右端に皮をむかれたレモンがある。
レモンに比べると、緑のレーマー杯(ガラスの杯)が巨大に見えるかもしれない。
でも、別の展示室でレーマー杯のコレクションを見た時、
中には高さ20cmくらいのもあったので、おかしくはないよう。 ← でも飲みにくいだろうね。
レーマー杯や右端の酒瓶ポットに映った十字の窓枠で、部屋の窓が分かる。
主役は金色のゴブレットだけど・・・
・・・気になるのは食べ物のほう。 食べかけのパンに、牡蠣がある。
日本で見る牡蠣と形が違う。 欧州で採れるのは主にこの平牡蠣のよう。 ブロンって言うんだっけ。
絵を描き終わった頃には、もう牡蠣は傷んじゃってて食べられないよね・・・。
角状に包まれた紙には胡椒らしきものが入っていた。 胡椒も当時は、かなり高価なもの。
Floris Claesz van Dijck(1575-1651) "Stilleven met kazen" 1615
フロリス・クラースゾーン・ファン・ダイクの『チーズのある静物』。
レーマー杯しかないように見えるけれど、チーズの両側にもグラスがある。 右側のは1つ倒れてたり。
静物画を見る際にチェックするのは、テーブルクロス。
それがどんなものかで、その家の裕福さが分かるんだそうな。
チーズの切り口がリアル。 中国っぽい焼き物の器やお皿。 ちょっと変色してる剥いた皮。
この画家の絵、アムステルダムの西の街ハールレムにあるフランス・ハルス美術館にもある。
よく似た感じのテーブルクロスに、チーズや果物の静物画で・・・
・・・"Stilleven met vruchten, noten en kaas" 1613 『果物、ナッツ、チーズのある静物』
このチーズで静物画、特に食べ物のある静物画に興味を持ったと言っても過言ではないくらい。
フランス・ハルス美術館に行ったのは2007年だから、もう7年以上も前の写真だけど。
マイレージで交換してもらった、単三の乾電池で動くCASIOのデジカメで撮影。
Adriaen van Utrecht(1599-1561/62) "Pronkstilleven" 1644
アドリアーン・ファン・ユトレヒトの『豪華な静物』・・・と訳すんだろうか。
まず、右下にいる犬のカットに驚く。 それはないんじゃないの・・・という感じ。
アプリコット、レモン、イチジク、桃、メロン、木苺などのベリー類、
ブドウ、房スグリ、プラム・・・と、ふんだんに並べた果物。
展示室でこの絵を観ている時、私の前に男の子がいた。 デジカメを構えている。
何を撮ってるのかなと、そっと覗くと、画面いっぱいに大きく赤いロブスターが。
思わず親近感を覚えた。 だって、その時、私が狙っていたのは・・・
・・・そのロブスターの前に並んだカニや小海老だったから。
そして、もう1つ。 この絵の中で、私の心を射止めたのは・・・
・・・焼き菓子。 これはどんな料理なんだろう。 当時、よく食べられていたものなんだろうか。
気になって、ネットであれこれ検索してみた。
一般にはオランダ語で Pastei パスタイと言われていて、辞書での日本語訳はパイとなってる。
でも、パイと聞いて思い浮かぶサクサク生地ではなさそう。 見た感じ、ビスケットっぽい。
だいたい富裕層で祝祭時に作って食べられていたよう。
中には肉、レーズン、ナッツ、栗、ジンジャー、クローブやナツメグなどスパイスいろいろみたい。
上部にある王冠みたいな部分は、煙突の役割。
穴があいていて、そこから外に蒸気を逃しているそうな。
焼いてる時に詰め物などから出る蒸気が中にこもって、
生地が破裂したり割れたりしないようにするためらしい。
Pieter Claesz(1597-166) "Stilleven met kalkoenpastei" 1627
ピーテル・クラースゾーンの『七面鳥のパイのある静物』。
テーブルの上に絨毯が敷かれて、その上に白いクロスが。
絨毯も当時高価なものだったし、靴を履いたままの暮らしの文化だから、
床に敷いて土足で踏みつけるなんてできなかったんだろうなぁ・・・。
卓上にある焼き菓子は先の絵に登場したものよりシンプル。
小皿にオリーブ、レーマー杯、スライスしたパン、レモン、胡桃やナッツ、平牡蠣など。
写真左上に見える銀製品に手前のテーブルの角が映ってるのもスゴい。
レーマー杯の、光を含んだ影もね。
でも、ふと気づいた。 これがタイトルにある七面鳥のパイじゃないことに。
先の絵画の全体写真を見てみると、卓上に七面鳥がいるではないか。
バラじゃないけど、口に花をくわえて、どっかりと。 その下にあるのが主役のパイだ。
焼き菓子のパイにパーツを載っけて七面鳥に仕立てる・・・なんともいえない飾り方。
見るだけにして食べるのは遠慮しようかな・・・。
ちなみに、こういうハードな生地のタイプのパイを食べる時は、
パイの上部分をカットして、中身をお皿にサーブ。 すぐに上部分を戻してフタするんだそう。
すると、中身を温かく保てるんだとか。
・・・と、ただ、ただ、美味しそうの視点から見たオランダの静物画鑑賞でした。
どれもなんだか美味しそう♪
生活密着型な庶民の生活から見た絵ではありませんね。
高級感がすごいわ。
by ぴーすけ君 (2015-03-13 20:47)
皮を切ったレモンが未使用のレモンと共に置かれているのは、うちも同じです。
ほんと、まさにこの絵の通り。実が所々見えていて、見ると口の中が酸っぱくなりそう・・・
うちのは、鉢の中に他に胡桃やオレンジなども入ってますが。
うちのドイツ人が、皮だけ使ってそのままもとあったところに置いておくんですよ。
乾燥しているからカビにくいってことがその理由なんでしょうけど、切ったら冷蔵庫に入れていた私は最初なかなか慣れませんでした。
by めぎ (2015-03-13 21:33)
ある意味、とてもとてもいなちゃんらしい絵画鑑賞記事ですことね(笑)。
風俗画を目の前にして見ているわけじゃないのに、食卓から見るオランダ風俗史みたいになってるものね(^^。
by yk2 (2015-03-14 01:39)
食いしん坊さん目線の、絵画鑑賞楽しいです♪
檸檬とか葡萄とか、驚きのみずみずしさですね!
ハーグでYが仕事をしている間に、無謀にも母子3人で、マウリッツハイス美術館に行ったことがあります
「真珠の耳飾りの少女」の絵に感動しすぎました(^_^)
by mitu (2015-03-14 08:43)
こういう絵画、クロスステッチの図案やジグソーパズルにしたら、
難解で楽しめそうかも^^。
絵の中で一際目を引くロブスターではなくカニや小エビを狙うあたり、
Inatimyさんらしいな。
キウイ、私もちょっと思い出のある果物。
まだ日本で出回り始めだったころ、父が東京出張の折におみやげに
買ってきてくれました。
毛むくじゃらの茶色のタマゴみたいなの、初めて見たときはかなりの
衝撃だった~^^;。
by ハリネズミ (2015-03-14 13:21)
すごいね〜どれも画なんだね〜〜。すごいよ。
じーっと見つめちゃったよ。
こんな画描きたいよね。というかどうやって見えてるんだろう。。。
by カエル (2015-03-14 14:25)
リアルな絵を見ていると お腹が空いてきました。
ちぎったパンやチーズのナイフの跡等ビックリするほどです。
by ami (2015-03-14 14:39)
しげしげと見ながら、解説?コメントを読んでいました
何度も、見返しながらね、なるほどなんて思いながら
テーブルクロス、そうよね、とか
牡蠣は、こちらのほうがぷっくりとかいろいろ
美味しそうなものから、遠慮したいものも
時代背景が違うからかなとか、、興味深ったです
by engrid (2015-03-14 17:58)
こんばんは。
きれいな絵画の数々、食べ物の絵はいいですね。とてもおいしそうです。
私は「銀の酒瓶のある静物」が好きです。皮をむかれたレモンもみずみずしくてきれいですね。
by coco030705 (2015-03-14 20:07)
豪華な絵ですねー
by luces (2015-03-14 20:22)
オランダの静物画ってリアルですものね~
チーズがとっても美味しそうです。
牡蠣も見てたら食べたくなりました。
絵画も自分の好きな物に注目して見ると楽しみが
倍増しますよね。
by miffy (2015-03-15 00:43)
本当にリアルな絵ですね~。どうやったらこんなに描けるんだろう・・・。まずそこに感心してしまいます。
私はチーズの断面がおいしそうに見えちゃいました(^^)
by 母ちゃん (2015-03-15 09:06)
絵なのに、立体的で
そこに食べ物があるように描かれているからすごいです。
リアル感ありますね^^
by アールグレイ (2015-03-15 11:11)
この絵ってどこに掛けるのでしょう。
居間かしら食堂かしら。
食堂に掛かっていたら、素敵なアペリティフになりますね。
by ナツパパ (2015-03-15 18:09)
あぁ(@@)* 素晴らしい絵画をありがとうございます♡
日本に居ながらにして鑑賞出来てとっても贅沢な気分♪
静物画といえど、画面の構成に流れがあって、リズムがあって
ただリアルなだけじゃない、美味しさとワクワク感を伝えてくれる
素晴らしい娯楽アートですね。
カピバラ大好きなので、過去記事の絵画も拝見しました♪
オモシロイですねーーー!牛や馬はあっても、カピバラは初めてです。
by のの (2015-03-16 10:07)
あ、この煙突付きのパイ、クリスマス料理特集でやっていました。
伝統的な作り方で作っていたので石窯で焼いていました。
絵画鑑賞でお腹がすきました。。。
by ねこの手 (2015-03-16 20:40)
この乱雑さ加減ってセンスいるなあとしみじみ(・∀・`)
by ふゆん (2015-03-18 06:19)
→皆さま「となりの食卓に並ぶもの」のお話にnice!やコメントをありがとうございました。絵画に詳しいわけでもないので、自分の興味のあるポイントに注目して鑑賞。美術作品は食べ物以外に、動物、植物、手、日用品、装飾などを見てることが多いかな^^。
→ぴーすけ君さま
ちょっとリッチな階層の食べ物ですよね〜。牡蠣がたくさん並んでたり、白いパンだったり、チーズなんて塊でどんっ!ですものね^^。
→めぎさま
レモン、絵のように置かれてるんですね〜。私も冷蔵庫に入れる派です、ラップにつつんで。確かに空気乾燥してますね。手でむける小粒のミカンの皮をむいて、テレビに夢中になってたら、すぐにパリパリ^^;。我が家も冬の間は胡桃。果物盛りは憧れ。実際は室温が高いからすぐ熟れてしまうので冷蔵庫の野菜室に・・・。
→yk2さま
久々の絵のお話。衣食住だと、やっぱり一番にくるのは食です♪ 静物画もいろいろあるけど、骸骨とか花や虫よりも、食べ物がたくさん並んでるのがいいなぁ。今の時代にこの食卓の絵が描かれたら日本だとどんな風になるかしら、と考えるもの楽しくて。お猪口に徳利、お寿司に舟盛り、霜降り肉、果物だと桃などは保護ネットかぶったのもあったりね^^。
→mituさま
自分が興味のある分野から見た方が楽しいですよね〜^^。マウリッツハイス美術館にも行かれたんですね。「真珠の耳飾りの少女」、思ったより小さい絵だったので、我が家ふたり、一度見過ごしたようで後戻りしました^^;。その前にあったレンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」が大きな絵で迫力あったもので・・・。
→ハリネズミさま
これらの絵のクロスステッチの図案やジグソーパズル、時間かかりそうですね〜^^;。白のテーブルクロスや壁など、クロスステッチは単調そうだけど、ジグソーはかなり難しいかも。焼き物のお皿やクロスのレースは、やっぱりバックステッチ^^? そうそう、キウイ、ごわごわのうぶ毛に包まれた実ですものね〜。今は普通に売ってますけど、子供の頃は珍奇な果物でしたよね^^。
→カエルさま
絵で描くのもスゴいけど、これ今、本物でテーブルに並べて再現して写真撮っても面白いだろうね〜^^。ないものは現代のものでアレンジして。牡蠣やロブスターが目の前にあったら、腐る前に調理して食べないと、と落ち着かないかもしれない^^;。
→amiさま
昔のちょっとリッチな人たちが何を食べていたのかが分かって面白いですよね。amiさんなら、この絵のパイ、再現できるのかも・・・なんて思って絵を見てました^^。
→engridさま
図録や絵画の横にある解説プレートだけの中で絵を見るのと、自分の好奇心のままに絵を見るのとでは、また違ってきますよね。食べるの好きなので、昔の人の食生活、気になります♪ 静物画の中でもこういった食卓ものは、そそられます^^。牡蠣は日本の牡蠣の方が大きくて食べ応えありそう♪
→coco030705さま
「銀の酒瓶のある静物」はシンプルな構成で、ブルーグレイの鉢に黄色いレモンが映えますよね。金のホルダー付きのグラスも面白く。集団肖像画でも人々が手に持ってたり^^。私ならすぐ倒して割っちゃうかも・・・。
→lucesさま
豪華な絵でした〜。卓上にある白いパンも美味しそうに描かれてましたよ♪
→miffyさま
難しいことは抜きにして、食べるのが好きという観点から絵画鑑賞^^。チーズの切り口見てたら匂いまでしてきそうな感じで。美術館のショップでも売ってるので、レーマー杯、欲しいな〜なんて思ったりも。
→母ちゃんさま
リアルですよね、この食卓にならんだものの静物画。かなりの根気いりそう^^;。私もチーズの断面にほれぼれ。よく行く野外市場のチーズ屋さんでもこんな塊がドンっと置かれてます♪
→アールグレイさま
これ3Dで見られたらスゴいでしょうね。よくミュージアムショップにそんな簡易グラスが売られてますけど風景が多いかな。テーブルクロスの柄まで丁寧に描かれてて驚きますよね。
→ナツパパさま
どこに飾るんでしょうね〜、これらの絵って。寝室にかかってたら、寝る前に空腹でお腹が鳴りそう^^;。絵のように、ボウルにふんだんに果物盛ったりしてみたいです♪ 記事書きながら牡蠣を見て、ナツパパさんのことを思い出してたのでした^^。牡蠣フライの山♪
→ののさま
完全に私の好奇心にまかせた絵画鑑賞で^^;。猟の獲物、花、楽器、骸骨など静物画に描かれるものはいろいろありますが、やっぱり食べ物が一番好き。美術館行っても食べ物と動物にはしっかり注目です。カピバラが描かれてる絵も見てくださって嬉しいです^^。あの時代にカピバラが登場するのも衝撃的でした♪イラストっぽいですよね〜。
→ねこの手さま
へ〜、煙突付きのパイ、TVのクリスマス料理特集でしてたんですか〜♪ いいなぁ、見てみたかった、作られる過程。作ってみたい。でも、今の家、オーブンが無い・・・・。クリスマスの頃に出る料理雑誌もオーブンものがほとんどなので憧れの眼差しなのでした^^;。
→ふゆんさま
散らかってるようで、色や形の配置がビシッときまってるんですよね〜。部屋が散らかってても、こんなふうだと案外馴染むのかしら^^。
by Inatimy (2015-03-20 08:11)