モーリスさんの家に訪問 [ミュージアム]
私の海の思い出は、冬の日本海。
鈍色の空の下、雪の降りしきる崖から見た荒波と
青と、青緑の部分に塗り分けたような海の色。
・・・新潟県 糸魚川市の親不知あたり。
小高いところから海を眺める男女、そして犬。
絵画を一部撮りして、好きなシーンを作るのも好き。 これは・・・
・・・Simon de Vlieger(1601頃-1653) "Strandgezicht" 1643
オランダの画家 シモン・デ・フリーヘルの絵。 タイトルを訳すると『海辺の風景』かな。
7月中旬に、青と黄色のボディーのオランダ鉄道に揺られてやってきたDen Haag デン・ハーグ。
この日帰り旅の目的は、Mauritshuis マウリッツハイス美術館だった。
2年ほどかけた改修工事が2014年に終わって再オープンしてから、行こうと思いつつも、
なかなか実現せず月日は流れ、フリック・コレクション展も見逃してしまった・・・。
なので、久々にたっぷりとオランダの画家の絵を満喫。
Jan Steen ヤン・ステーン(1625/26-1679) の"Het zieke meisje"『恋わずらい』1660-1662頃。
私が気になるのは、絵の右端にある・・・
・・・こちら。 昔に使われていた道具は、これ何だろう?と好奇心をくすぐられる。
陶器の容器に熾火(おきび)が入ってるよう。 そして木製らしき穴の空いた木の箱。
同じくヤン・ステーンの "Soo voer gesongen, soo na gepepen" 1665頃
日本語のタイトルは『この親にしてこの子あり』、『親に倣って子も歌う』。
オランダ語タイトルの意味は<こうして歌えば、そう吹く。 私が歌うとおりに吹きなさい。>らしい。
子供に煙草パイプを吹かせたり、バグパイプのようなものを吹いていたりが、この絵のポイントらしいが、
私の注目は足元。
この絵で先ほどの道具が何なのか判明。
グラスを持って椅子に座る女性の足の下に、同じようなものがあった。
足を温める、昔の暖房のようなもの。
調べてみると、オランダ語では Voetenstoof フッテンストーフと言うそうな。 足ストーブ。
私がヤン・ステーンですぐさま思い浮かぶのは・・・
・・・この『牡蠣を食べる少女』。 "Het oerstereetstertje" 1658-1660頃
我が家では、『牡蠣の盗み食い』と呼ばれている^^;。
生牡蠣に塩をかけてるところなんだそうな。
牡蠣は日本で良く見かける長細い貝殻でなく、まるっぽく平たい、ブロンなどのヨーロッパヒラガキのよう。
デルフト焼きの水差しに食べかけのパンもキレイ。
こちらもヤン・ステーンの絵で、"Het leven van de mens" 1665頃
直訳すると『人間の暮らし』。
この絵でも右端のテーブルの上には、生牡蠣がのったお皿がある。 オレンジやレモンも見える。
そばの赤い帽子に青い服の少年は、パンの入ったカゴを左手に持ってる。
過去見てきた静物画でも、生牡蠣が塩やレモンとともに銀のトレイなどに並べてあった。
※ 参考: 牡蠣の絵が出てくる記事は、コチラ。
みな、牡蠣は生で食べるんだ・・・と、そう思っていたら・・・
・・・絵の左端で、脚付きの網の上に並べて牡蠣を焼いてる女性がいた。 赤い炭火の粉も見える。
これを見て、どことなく気持ちがホッとした。
アタリそうで怖いから、生食より焼いたのがいい・・・と、絵画で生牡蠣を見るたび、そう思ってきたから。
私の好みとしては、カキフライなんだけれどね。
さて、マウリッツハイスというと、日本で有名なのは・・・
・・・Johannes Vermeer ヨハネス・フェルメール(1632-1675)。
この絵は、 "Diana en haar nimfen" 『ディアナとニンフたち』1653-1654頃。
中央に座ってるのがディアナ。 ローマ神話の狩猟や月の女神。
ニンフのひとりがディアナの足を洗っている。
解説を読むまでは、実は妊婦さんだと思っていた・・・。
前屈みになるのが大変だから、洗ってもらってるのだと。 ・・・そんな風に見えない?
そして、フェルメールの"Gezicht op Delft" 『デルフトの眺望』1660-1661頃
南から街の中心を見たところで、今のHooikade(ホーイカーデ)という通りからの眺めと言われてる。
7年前、Kamoさんとふたりで、絵画を真似て撮ってみたことがある。
雲がオランダらしい感じ。
川岸での立ち話の様子もいい。 朝の運河ボートを待っているんだそうな。
対岸、右に見える建物がSchiedamse Poort スヒーダム門。 現在は、もうない。
で、忘れちゃいけないのが・・・
・・・フェルメールの"Meisje met de parel" 『真珠の耳飾りの少女』1665頃
昔、初めてマウリッツハイスに来た時、我が家ふたり、この絵に気づかなかった。
どこにあったんだろう?と引き返して、やっと分かったという・・・。
というのも、思ってたよりサイズが小さくて(44.5 x 39cm)、しかも当時は・・・
・・・Rembrandt(1609-1669) "De anatomische les van Dr.Nicolaes Tulp" 1632
レンブラントの『ニコラス・テュルプ博士の解剖学講義』の向かいにあったから。
部屋に入った途端、大きな絵で、しかも解剖だし、迫力ありすぎて、そっちに気がいってしまった。
解剖されてる屍体は、絞首刑でなくなった囚人だそうな。 ・・・怖いから遠くからの写真で。
昔のオランダでは、学生や一般に向けて解剖の公開があり、それ専用のAnatomisch theater 解剖劇場が。
アムステルダムのニューマルクト広場にある計量所の上の階にもあったよう。
そんなレンブラントも有名な画家。 "Het loflied van Simeon" 『シメオンの賛歌』の一部。
照明が写り込んでしまってキレイに撮れなかったから部分撮り。
青い服をまとっているのが聖母マリア。
薄暗い神殿の中、幼子イエスを抱くのがシメオンで、上から照らす光がまぶしいくらい。
ガイドブックによると、ヘット・ロー宮殿で、この絵と一対で飾られていたのが・・・
・・・Gerrit Dou(1613-1675) "De jonge moeder" 1658
ヘリット・ダウの『若き母親』なんだそう。
レンブラントの弟子のひとりだったヘリット・ダウ。
昔、初めてマウリッツハイスに来た時に、この絵を見て惚れた。
大きな糸切りばさみを持った母親の表情、かご製品の編み、空が青いところもいい。
と、有名なフェルメールやレンブラントを目当てにマウリッツハイス美術館に来る人が多いけれど、
ガイドブック曰く、昔々の人々に人気の絵は・・・
・・・Paulus Potter パウルス・ポッテル(1625-1654)の"De stier"『雄牛』 1647 だったらしい。
確かに。 私も、このマウリッツハイス所蔵の絵の中で好きなうちの一つだもの。
写真右端、そばに立って絵を観ているおじさまから、この絵の大きさが分かるかな。
235.5 x 339cm あるそうな。
絵の右端のほうには、遠くの野にいる牛たちの様子が。 家の煙突から煙も出てたり。
今でも普通に見られる風景というのも身近に感じるところ。
さらに視線を左に移せば・・・
・・・牛の後ろ足の間にも、遠くの野にいる牛たち。 植物も細やかに描かれてる。
さらに左には、大きな牛の手前に、カエルがいたりして。
牛の体にたかるハエ、鼻のてかり、瞳やまつ毛、羊の毛並みとか、見事な描写。
くねっとなった牛の前脚も愛らしく、動物好きにはたまらないのだった。
ところで、なぜブログタイトルが、モーリスさんの家なのか。
Mauritshuis マウリッツハイスは、マウリッツの家と言う意味。
マウリッツは、英語やフランス語でいうMaurice モーリスさん。
美術館となってる建物は、もともとは邸宅で、住んでいたのはオランダ領ブラジル総督だった人、
ナッサウ=ジーゲン侯 ヨハン・マウリッツ (1604-11679)。
・・・と、書いたところで、すごく長くなっているのに気付いた^^;。
残りは、また今度。
足温器ですか、火を使っているので、うっかりすると、火事になりそうで怖いですね。
by テリー (2015-08-19 22:02)
絵の中の道具、私も気になってしまう方です^^
『真珠の耳飾りの少女』の映画を観たときも、生活の道具や調理の場面などが興味深く楽しめました。
20数年前に、2人の子供とこの美術館に訪れ初めて『真珠の耳飾りの少女』に出会った時、しばらくその場から動けなくなるほど魅せられてしまった記憶があります。
まだ幼稚園だった次男は、牛の絵が気に入ったようでポストカードを買っていました・・・懐かしい思い出がよみがえりました、ありがとうございました(^_^)
by mitu (2015-08-20 09:56)
モーリスさんのお宅、重厚な雰囲気ですね~
ブラジルへ行っててここにいる暇はあまり無かったかな?ブラジルへ渡る海はどんなだったかしら。いや、実は総督ってブラジルに行ったこと無かったりしてここで優雅に過ごしてた?などと想像♪
私にとっても海は冬の日本海。吹雪で波がざっぶーんと大荒れ、でもカモメがなんでもないかのようにその波間にたむろしている...という感じです。
by めぎ (2015-08-20 15:34)
『デルフトの眺望』は是非見てみたいです。
牛も羊も良い表情をしていますね。
by luces (2015-08-20 19:33)
昔にも冷え性の女性・・・^^
私は冷房の中にいると足先だけ冷たくなります^^;
それにしても動物の描写、筋肉や毛まで・・・すごいです。
by akko (2015-08-20 19:58)
当時の道具を発見するのも
楽しいもんですね(^^)
by (。・_・。)2k (2015-08-20 20:05)
モーリスさんのお宅、行かないのかな?って思ってました。
オランダの画家の絵は当時の暮らしが良く分かって面白いですよね。
「牡蠣を食べる少女」あまりにも小さい作品だったので見逃していて
絵葉書を見てあわてて探しに戻りました。
「真珠の耳飾りの少女」は私が見に行った頃は「青いターバンの少女」と
呼ばれていました。
ジッとこちらを見つめている眼差しからなかなか目を外すことが出来ません
でした。
by miffy (2015-08-20 21:16)
牛の足拡大したとわからなくて、この絵の構成感動するー!っておもってしまいました。こんな斬新なこの時代で構図見た事無かったから〜。
Inatimyさんの切り取りとは^^
by カエル (2015-08-20 22:01)
足ストーブ、予想が的中してニンマリ♪。
牡蠣は大好きな食材。
もみじおろしとポン酢でいただく生食もいいけど、やっぱり私もカキフライがいいな^^。
牛の脚の間にまた牛・・・・細かすぎる描写に感動ですね。
by ハリネズミ (2015-08-21 08:05)
あらら、この記事、読み忘れてました。
フリックコレクションは貸出ししないから、NYに行ってみないと、ってガイドブックに書いてあったけど、マウリッツハイスになら貸すのね。
たしかマウリッツハイス美術館が改装の時、作品を日本に貸し出してくれたので「マウリッツハイス美術館展」がありました。名画揃いでした。その時、見た絵が、この記事に、いくつもあって、懐かしかったです。
http://taekoparis.blog.so-net.ne.jp/2012-09-09
「牡牛」、こんな大きな牡牛、一度見たら、忘れられないわね。
by TaekoLovesParis (2015-08-24 14:35)
→皆さま「モーリスさんの家に訪問」のお話にnice!やコメントをありがとうございました。マウリッツハイス美術館、改修工事で以前とエントランスが変わってたのにもビックリ、入ったところのホールも広い。ブラッスリーもあって充実。でも我が家は外に食べに出かけたのでした^^;。
→テリーさま
暖かそうだかけど、熾火に木製の箱ですものね^^;。使用時は十分気をつけないと。
→mituさま
私も何年か前に映画『真珠の耳飾りの少女』のDVDを見ました^^。そして舞台の街デルフトにも何回か行ってたり。フェルメールセンターもあって楽しめますよ。(過去のブログ記事「映画の舞台へ」http://inatimy.blog.so-net.ne.jp/2008-07-10)。次男さん同様、私も牛の絵大好き♪ いつかまたオランダへ♪
→めぎさま
モーリスさんこと、ナッサウ=ジーゲン侯 ヨハン・マウリッツは総督として実際に7年間ブラジルに滞在。その間に家を建てていたそうな。ブラジルから戻ってこの家に住んだ後、実は、クレーヴェの総督に任命されてるんですよ^^。で、庭園作ったんだったかな。Prinz-Moritz-Kanal という水路もあるんだとか。あら、めぎさんにとっても海は冬の日本海だったとは。日本海って冬が似合うんですよね〜^^。私はよく冬休みを信州で過ごしていたので、その帰り道で日本海を見てたんですよ。
→lucesさま
『デルフトの眺望』いつかぜひご覧になってくださいね〜。そしてデルフトの街で、それが描かれた場所を見たりするのもオススメです^^。オランダの野にいる牛や羊、そののどかさは今も昔も変わりませんね♪
→akkoさま
私は子供の頃は、いつも手足がしもやけ。でも、大人になって体質が変わったかな。厳しいオランダの冬、日本の5本指靴下が大活躍です^^。一時帰国するたびに調達♪写真のように精密に描かれてましたよ、牛や羊^^。牛の頭の毛の生え方までリアルで。
→ (。・_・。)2kさま
異国の昔の道具は、興味津々^^。いろんな人の知恵や発想で、暮らしがだんだんと年利なものになってきたんだなぁ・・・としみじみ。
→miffyさま
デン・ハーグに来るというのは、マウリッツハイスかマドローダムかって感じですよね^^。「牡蠣を食べる少女」も、そうそう、小さいんですよね〜。これは分かったのに「真珠の耳飾りの少女」は見逃したなんて。解剖学講義の出すオーラみたいなのがきっと強いんだなぁ。フェルメールの絵には他に「真珠の首飾りの少女」もあって、混乱しますよね^^;。
→カエルさま
フラッシュなしでの撮影可のところでは、たいがい、こんな好きな切り取り方で撮ってます^^。好きな部分をメインにできるし♪ 雄牛、かなり大きな絵で、実物大の牛?なんて思うくらいです。
→ハリネズミ様さま
木の箱の中に熾火を入れた陶器、って使うのはちょっと恐々ですよねぇ。木箱燃えたりしないかしらと^^;。牡蠣は見た目が怖くって。できれば姿の見えないカキフライが♪もみじおろしとポン酢、フライにこの組み合わせもいいかもしれない。私、子供のころ、焼肉には七味大根おろしでした^^。大根おろし好き♪
→TaekoLovesParisさま
フリックコレクションは通常貸出しない、なんて聞くと、行きそびれたのがすごく残念です〜。花粉症だの、味覚障害だの、一時帰国だのでバタバタしてるうちにあっという間に終了してて。マウリッツハイス、我が家がパリに行ってる間に改修工事してたんですよね。戻ってきたらアムステルダム国立ミュージアムも再オープンし1年後にはマウリッツハイスも再オープン。タイミング良かったな、と^^。「マウリッツハイス美術館展」の記事読み返してきました。そうそう、日本では「真珠の耳飾りの少女」がすごい人気ですよね。縄を張って順番で見る、なんて^^;。今回行った時はその絵の前に3人くらいいたかな。昔初めて行った時は、展示の部屋には我が家二人だけでした・・・。そういえばゴッホミュージアムなんて、20年近く前は、入館の行列もなく、館内まばらだったのに。
by Inatimy (2015-08-24 22:21)